臭い、香り立つおっさんはお好きですか。

思うこと

朝5時台の電車に乗っている。

最近はもう8時とか9時とか、いわゆるラッシュ時に電車に乗ることなんてない。今後人生で絶対に乗りたくない。この朝の時間は座れる。まず間違いなく座れるから早起きする。

たまに端っこが座れないことがあるぐらいの混み具合と言えば大体の社畜リーマンならわかるはず。羨ましいだろ(こんなことで優越感に浸る器の小さな男です)。

そして大体の場合静かである。静寂といってもよい。いつも同じ時間に乗っているので、大体他の人が座る席もわかっており、変な席取り合戦もない。みんな所定の位置に座って自分の目的駅が来るのを寝たり、本を読んだりしながら待つわけである。

先日この我々の静寂なる精神と時の部屋に、珍妙な、というか単にマナーを巻き舞えない男が入ってきた。

いきなりスマホで話しながらのご登場である。

このご時勢、しかもこの静寂空間にスマホ片手で、通話音量”大”で突撃をするなど、なかなか出来ることじゃない。相当できる御仁とお見受けした。

普通なら、話が終わらせられなくてもちょっと声をひそめたり、ちょっと身をかがめたり、若干卑屈な、弱弱しそうな態度を見せることで、周囲の「まぁ、ちょっと忙しいのかな。ちょっとぐらいならいいよ」という暗黙の了解を得るものと思っていたのだけど、こうやって堂々とひれ伏させる方法もあるのか。

なんでもどれだけ家に帰っていないかを電話の向こうの誰かに語っている。格好は一応スーツを身にまとってはいて、それなりにシュッとしている30歳前後なのだけど、どこかくたびれた感じを受ける。

恐らく帰れないといっているぐらいなので、相当な社畜リーマンなのでしょう。普通ならこの朝の静寂の列車においてそんなトーンで話し続けるなど、ちょっと常識のある普通のサラリーマンにとっては苦行でしかないからね。私など思いも及ばない社畜リーマンのはずだ。

だが通勤電車を使っているとたまには変なやつには遭遇する。そんな有象無象がいる空間に毎日身をおいていることは十二分に認識している。こんなときのために、この文明の利器ワイヤレスイヤホーンを使っているのだ。

イヤホンの音量を上げれば私はまたAudibleの世界に戻ることが出来る。

しかしこの男はなんと、私の文明の利器を超えてきた。

そう私の隣に腰を下ろしたのです。

別に座ることそれ自体はしょうがいない。

すいているとは言っても既に残っている席は限られており、その限られた席の一つが私の隣なのである。そして実は既に通話は終わっているので、うるさいなんのと言える筋合いでもない。

しかし問題は別のところから来た。

私の鼻腔をくすぐるこの臭い。否。くすぐるとか言うレベルじゃない。

ここ暫く風邪気味で強い刺激を受けていなかった嗅覚という嗅覚が敏感に、それこそもうこれまで休んでいたブランクを埋めるように逞しく反応している。

そう平たく言って、臭い。臭いのです。

臭いはどうやったってワイヤレスイヤホンでは避けようもない。文明云々の話ではなくて、使い所が違う。バカとはさみは使い様とはよく言ったもの。イヤホンを使ってどんなに自分の世界に入ったところで臭いのそれは、全く関係のない私の鼻腔を通り抜けて明らかな不快感を私にもたらす。

そこで私は作戦変更を余儀なくされる。もう臭いを防ぐことは出来ない。ならば顔を横に向け(幸いなことに席の端っこなので右側には誰も居ない)、息を限りなく潜める、というアナログ手法。もはや文明云々言っている場合じゃない。

最初は酒臭い、、、のかと思った。帰れなかったってのは飲んでて帰れなかったとも取れる。

でも酒臭いって言うより、単に臭い。それは個人的な臭いではと思わずには居られないなんともな感じ。あぁ。むしろ酒臭くあって欲しかった。

酒臭いならばそれは一時のもの。どれだけ飲んだところで、人間の体はよく出来ていて一日新陳代謝を繰り返せば人間ってのはそれなりにリセットできるようになっている。

それがもし、この臭いが常態化しているとしたら、、、。私は彼の人生を考えて恐ろしくなった。臭いというのは本人では自覚しにくい。誰かが優しく、そして断固たる決意を持って伝えなければならない。

ただその役目は私ではない。

いきなり隣のちょっと自分よりもおっさんで、なんならちょっとした見た目判断では自分よりも臭いとされそうな人間から、「あなた臭いですよ」といわれたら、流石に温厚な私でも憤る。というより戸惑う。

だからと言って「大変不躾なようですが、あなたからなんとも言えない、香り立つものがありますので、若干のケアをされるとよろしいですよ」等と丁寧に説明されたところで、変な奴と思われて終わりだ。

それに言われたから何をどうこうできるわけではない。それこそファブリーズとセットでお伝えしないと失礼じゃないか。

そう。私に出来ることは残り数十分を我慢し、この方の臭いがただ酒臭いのだと思い込むことだけ。

そしてこの方を反面教師として、私から発させれる臭いは社会通念上許容されるものなのか、妻に確認してもらうことしか私にはできない。

結婚して何がよかったって、臭いを第三者視点で確認してもらえるってこと

でもときどき断られることがあって、その精神的なダメージが大きいことは、妻にはしっかりと認識して欲しいんだけど。でも断られたからって別に私が臭いわけじゃないんだと、そう信じているんだけど。

わっしょい


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